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北の国の若者 (薔薇と姫君 その3) [創作童話]

続きです。


北の国の若者

遠い北の国に、広いお屋敷がありました。
お屋敷の庭には少女像がありました。
それは見る人がみんな、ため息をつくような美しさでした。
少女像の隣には薔薇の樹が植えられていて、
ちょうど髪の毛や胸元に、
飾るように薔薇の花が咲きました。

お屋敷には小さな若君がいらして、
若君はお庭で遊んだり、剣術の稽古をするたびに、
美しい像に目をとめて、うっとりと眺めるのでした。

いつしか時はすぎ、若君はりっぱな若者になりました。
父上は若者に諸国をみて、勉強してくるように命じました。
若者はいろんな国をまわり、さまざまな文化を学びました。
もとより剣の名手でありました。

やがて若者は西の国につきました。
とある舞踏会で、若者は一人の少女に目をとめました。
・・・なぜか懐かしい気がする。
それもそのはず、
その人はお屋敷の少女像に生き写しなのでありました。

若者は少女に近づき、話しかけようとしましたが、
周りの人に止められました。
少女は若者に気づかず、遠ざかってしまいました。
あの方に近づいてはいけない。
この国のお妃さまでいらっしゃる。

若者は目の前がまっくらになりました。
はじめて心惹かれた女性。
懐かしい面影を写す人。

翌日、若者はご挨拶のため、宮殿に出向きました。
そこにいたのは、紛れもなく昨日の人。
無垢な瞳の、儚げな人。

姫君は今日もいつものように、
美しく着飾って、人々の前におりました。
その時、ふと、一人の若者に目が止まりました。
大きな瞳を見開いて、少女は若者を見ました。
あなたは・・。
若者は少女が故郷にのこしてきた、美しい彫像にそっくりだったのです。

何世紀も前から、この時を待っていたように
2人の胸は高鳴りました。
けれども、言葉を交わすことはできません。

若者は悲しくなって、庭にでました。
庭の奥に、美しい薔薇が咲いているのを見つけました。
近寄ってみると、それは北の館の少女像の胸を飾っていたのと同じ薔薇でした。

ここであなたに会えるとは。
よく似た人はいるものだね。
若者は薔薇に話しかけました。

薔薇はにっこり笑っていいました。
貴方のお庭の薔薇は私の姉妹ですの。
小鳥さんがはこんでくれましたのよ。
若者は薔薇がしゃべるのを聞いて驚きました。

その時一羽の小鳥が飛んできて、薔薇の花をくわえて飛び立ちました。
若者は我知らず、その後を追いました。
角を曲がったところで、ぶつかりそうになったのは、
なんとあの姫君。

2人は永い間見つめあい、やがてお互いに手を取りました。
小鳥は薔薇を若者の上に落としました。
若者は薔薇を受け取ると、姫君の髪にさしました。
姫君はにっこりしました。
若者も微笑みました。
幸せな空気があたりに流れました。
薔薇の甘い香りが二人を包み込みました。
その瞬間、二人の姿は消えました。

2人の魂は、溶け合って一つになり、
高く高く空に昇っていきました。
2人を祝福するかのように、空は青く、どこまでも澄み渡っておりました。

残ったのは一輪の薔薇の花。
小鳥が飛んできて、薔薇の花を加えて飛び去りました。
薔薇は遠ざかる宮殿を見ながら言いました。
私たちの旅も終わるかしら?
小鳥はそっとうなづきました。



      おわり



IMG_0848.JPG


姫君のモデルはマリー・アントワネット、
北の国の若者はフェルゼン伯です。
現実には悲劇に終わった二人の恋ですが、
幸せにしてあげたかったので・・。
無理無理っぽいけど。^^;








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コメント 2

sknys

無口で、引っ込み思案な王子は端役だったのね。
王子の心情を思うと、姫君の不義(不倫?)のような気もするのですが^^;
薔薇さんは傷心の王子には微笑まないのかしら?

読んでいるブログ(RSS)の更新通知が滞っているようです。
by sknys (2017-01-26 23:59) 

ぶーけ

王子様はね、端役でした。^^;
やっぱり気の毒ですよね。
私もかわいそうな感じがして、その後を書きました。
by ぶーけ (2017-01-27 18:46) 

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